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ファーマーズマーケット奮闘記」

古塩明男 (米1:群馬県出身)

   私が研修を受けているワシントン州タコマの「テリーズベリーズ」というオーガニックファームでは完全無農薬・無化学肥料の野菜や、ブルーベリー、ラズベリーといったベリー類、そしてリンゴ、ナシ、プラムなどの果樹類、さらに有機飼料で育てたニワトリの卵などを生産しており、おもにこの農場と契約しているお客さんに、直接新鮮な生産物を提供しています。


 テリーズベリーズの農場主、テリーさんはとにかく農業を愛する女性で、農業について話をするときはもう楽しくてしかたがないというような方です。私はそのテリーさんと、ご主人のディックさんとほとんど生活を共にし、まるで息子のように扱ってもらっています。

 そんな中、今私が最も熱心に取り組んでいるのがファーマーズマーケットです。テリーズベリーズでは週3日ブースを出していますが、私も売り子としてタコマ近郊のユニバーシティープレイスという町の1店舗を任せてもらっています。まだ暗い早朝から野菜やベリー類を収穫し、トラックに積み込み、朝のラッシュ時の高速道路をマーケットへと向かいます。

 私の受け持つ地区の住民は移民が多く、メキシコ系、アフリカ系、アジア系、ロシア系などなどお客さんの顔ぶれは実に多様です。そして彼らの好みの野菜も国によって異なるという点も実に興味深いところです。

 ところで、マーケットの売り子としてひとたびアメリカの社会に出れば「研修生」という甘えは通用しません。慣れないうちは英語がききとれなかったり(今でも)、あるいはおつりの計算を間違えたり(当然おこられます)、本当に苦労しました。実際の話、マーケット恐怖症になりかけたこともあります。けれどもそれ以上に自分で育てた野菜が次々に売れていくのを目の当たりにすることは本当に大きな喜びに違いはありません。「オー マイ ガーッ! なんてきれいなレタスなのかしら!」とか、「先週ここで買ったグリーントマトでサルサソースつくったけど最高だったよ」などと声をかけてもらえるとそれまでの苦労が報われた気がします。

 私は野菜やハーブを育て、それらをこうしてお客さんに直接販売していると自分の作業すべてにポジティブな本物の手ごたえを感じます。自分が手を土で黒く汚し、汗水流して一生懸命育てたものを、人々に提供するという行為は、自分の一部を人に与えるようなものだとも思います。

 帰り道、トラックのハンドルをにぎりながら、自分のつくった野菜がどのような食卓に登場するのか想像してみることもあります。お金持ちの家、たとえ貧しくても愛情にあふれる家、なにか野望を抱いている移民の若者、野菜食でダイエットしようと計画しているご婦人方・・。おおげさかもしれませんが、私の野菜がささやかでもアメリカの社会に貢献できているとしたならば農業研修生としての役割を一つ果たせているのではないかと満足している今日このごろです。

 
 
※この原稿は『北米報知新聞10月9日号』に掲載されたものです。