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不自由を不自由なりに楽しむということ そして家族とね

斉藤 親志 (米2/茨城県出身)

 
 

今日もキッチンから晩ご飯の良い匂い、そしてリビングルームから屈託のない笑い声、にぎやかな子供たちの声が自分の部屋まで届いてきて、仕事で疲れた自分の体を心地よくいやしてくれているかのようです。

 自分は今、オレゴン州オレゴンシティ市で生活をしています。州最大の都市、ポートランドまで車で40分ほど。天気がよい日は、マウント・フッドという富士山によく似た山が見えます。自分は北関東出身なので、実際に富士山を見たことは片手で数えるくらいしかなく、この山が綺麗に見えた時はとても得した気分になり、「ぜいたくだなあ」と心から思う日々を送っています。

 自分が思うオレゴン州の特徴は、雨です。1日中快晴になる日は、6月から9月頃までで、ほかの月はほとんど毎日のように、シトシトとそしてゆっくりと雨が降り続いています。

 自分の専攻は造園で、ここに来て早1年になろうとしています。ボスは日本人で自分と同じこの研修を経て、1度日本に帰って造園の修行をし、そしてまたこの国へ戻ってきて今に至った人です。自分はボスの家―フクダ家でホームステイ兼仕事をさせてもらっています。家族は、ボスと奥さん、子供が6人の大家族で上の2人の子供は別の州で暮らしています。男の子が4人、女の子が2人で21歳(長女)、20歳(長男)、19歳(次男)、17歳(三男)、15歳(次女)、14歳(四男)と続きます。本当に忙しくにぎやかな家です。日本にいる頃は、日本の家庭では親子のコミュニケーションがないという話をよく耳にしましたが、この家はそういうことと無縁の気がしてなりません。

 ボスは決して子供を甘やかしてはいません。ですが、愛情はストレートに表現します。それに対して子供たちもストレートに返してきます。それから、注意したり叱ったりする時は子供たちと同じ目線に立っています。そういう瞬間を見ていると、自分の少し照れながらもうらやましく思っています。純粋に「家族っていいな」って心から思える瞬間です。きっとこういう家族のために一家団欒という言葉があるんだと思います。

 この家に最初に来た時は、ものすごく緊張していました。英語ができる人間ではなかったので「うまく家族の生活になじめていけるんだろうか」と大いに悩みましたが、今ではすっかり家族の一員のように、そして自分の家族のように毎日楽しく過ごさせていただいています。

 事前に「冷蔵庫にあるもの何でも食べていいわよ」と言われましたが、奥さんが24個入りのヨーグルトを買ってきてくれたので遠慮なく23個いただきました。とても美味しくいただきました。

 この間、一番下の男の子(14歳)に、将来何になりたいのと聞いた時、彼はすぐにアイスクリーム屋さんと答えました。理由を聞いたら、ものすごくばかにした目で「おいしかったからに決まってるじゃん」と言ってました。彼は自分でアイスクリーム屋さんをやりながら、アイスクリームを全部食べるのが夢らしいです。

 毎日何かしらのことが起き、そして1日が終わり、また次の日に別の問題が起きる、「退屈」という言葉に縁のない家、笑顔が絶えない「幸福」という言葉に縁がありすぎる家、そんな家で自分は今暮らしています。今年は1月から3月まではカリフォルニア州で大学生活をし、それが終わるとまたこの家に戻ってきて、残り2ヶ月半の米国生活をするわけですが、フクダ家で暮らしたことは一生忘れられなさそうです。

 振り返ると、この1年は不自由を不自由なりに楽しめた年でした。会話、そのほかの日常生活、仕事も含め、いろいろ不自由でしたが、その中に楽しさを見つけ出すことができました。これからもずっと不自由さを不自由なりに楽しんでいける人間、そして家族を大切にできる人間となり、人生を歩んでいきたいです。


 
 

※この原稿は『北米報知新聞2006年2月11日号』に掲載されたものです。