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1年前の今頃は何してたっけ?
“あの頃の未来に僕らは立っているのかな”

<連載 第5回

柿谷信実(スイス研修生:高知県出身)
 


 八月一日。この日はスイスの誕生日! センティスって山に行った。この日だけロープーウェイが半額になるとの情報を耳にした日本人の研修生仲間に誘われて、三人で行ってきた。さすが、観光大国スイス! 二五〇二メートルの山だけど、列車、バス、ロープーウェイを使うと、疲れることなく頂上まで行ける。もちろん歩きたい人はどこから、どこを歩こうが構わない。せっかくだから少し歩いてみたいね! ってことになって、頂上から百メートル位下りてみた。こわかったー!!! 八ヶ岳の阿弥陀岳を登った人なら分かる。あのガケ登りに近い道でした。しかも、その日あたしは靴底がスベッスベの靴を履いていたので……死ぬかと思った。一歩足を踏み外せば岩と雪の斜面にまっさかさま。まっ! さすがあたしなだけあって、ドジは踏まなかった!

 その日の帰り、駅のホームで列車が来るのを待ちながら、懐かしい日本の歌を歌った。曲も懐かしい“夜空のムコウ”。日本にいた時はこんなこと考えもしなかったけど、「言葉を理解できる歌はなんていいんだぁ」っと、しみじみ思いながらほとんど忘れかけていた歌詞を思い出した。♪あの頃の未来に僕らは立っているのかな?♪……曲はストップ!

 一年前の今頃って、何してたっけ? と顔を見合わせた。まだ選考試験も済んでなくて、海外研修は夢の中だった。両側に座っている二人とも顔も名前も知らない他人だったけど、あたし達はこうして一緒にいる。それを思っただけで、声のない、ため息に近い歓声が出てしまった。研修内容は、昨年描いていたのとは似ても似つかない今の生活だけど、夢じゃなくて、現実だ。そして続きを替え歌にして歌った。♪夜空のむこうには仕事がもう待っている♪。次の日は月曜日。また一週間が始まる。

 八月三日の午後の仕事はブラックベリーの二度目の収穫。やっぱり左手はトゲに引っかかれて、傷だらけになってしまった。でもでも、一人で収穫のため、時々「味見」をする(笑)。こんなこと、口が裂けても言えないけど、「こいつはうまい!」と目をつけたやつはあたしがいただく! なんておいしい仕事だこと。日本の実家でも借りている畑にブラックベリーの木を植えているけど、甘いのは食べたことがなかった。つまり、こっちに来てブラックベリーが甘いものだということを知った。そして、なにげにただの収穫でも勉強になる。ブラックベリーの色のつくのを想像して下さい。その通り! 緑→赤→黒となります。だから、実の順番が色によって見てとれる。そういえば、昨年、各論の授業でイチゴをやった。同じ科なだけあって、順番が一緒だなーとぼんやり考えはじめた。ここまでくると頭の中はすでに日本! つぶやくように歌を歌いながら、私の頭の中は農大仲間と行ったカラオケが再現されている。まったく……ここをどこだと思ってんだ! あたし!!

 でも…「つーちゃん、帰ったらまたカラオケ行こうね!」。


 
 
※この原稿は『農村報知新聞8月号』に掲載されたものです。