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今さらながらのカルチャーショック
自分の変化に唖然…
<連載 第10回

柿谷信実(スイス研修生:高知県出身)
 


 
私の暮らす街に初雪が降ったのは、十二月の半ばでした。思ったより寒くないスイスの冬に私は拍子抜けしてしまった。

 というのは、高知生まれの高知育ちの私は寒さが大の苦手で、毎年冬はストーブにかじりついていました。ところが、スイスの家は、雪が降ろうと、あられが降ろうと、室内はしっかり防寒されているので、かなり温かいのです。家の中の仕事の方が多い私は、毎日汗をかいているほどで、拍子抜けというより安心して毎日を過ごしています。

 ところで、年末のある日の午後、突然地元の教会の牧師さんの奥さんから、招待の電話をもらった。スイスに来てすぐの頃から私はこの教会の礼拝にちょくちょく行っていて、「私の父も牧師です」と言うと、牧師さんはかなり親近感を持って親切に接してくれていました。私はクリスマスに小さな贈り物を牧師一家に贈っていました。それをかなり喜んでくれたらしく、「今度、うちに招待したい」と牧師さんが前に言っていた。

 電話口で牧師婦人が「今日の午後うちに来られる?」と言う。思わず「今日!?」と聞き返した。はっきり言って、午後の二時過ぎにこんな電話をかけてくるなんて、非常識だと思った。断ろうとしたけど、ご主人さん(農場主)は「行ってもいい」と強く言う。でも私の親分(奥さん)からは、もう午後の仕事の指示は出ていた。相談しようとしても、親分は家にいなくて困った私はご主人さんに従って、とりあえず「行く」ことにした。けど、親分の承諾もなしにこんな話は納得がいかなかった。

 帰ってきた親分に話すと、快く承知してくれたけど、私はイライラしてしかたなかった。ヨーロッパの牧師は地位が高いと聞いていたけど、こんな話が許されていいのか! 夏にも一度昼食に招待されたことがあったけど、その時も突然、当日言い出した。二度目も当日に招待だなんて、こんなことを普通にするこっちの牧師は少し放漫なんじゃないかと思った。それに、それを許す人たちもどうかと思った。私の仕事はただでさえ他の国の研修生とは比べものにならないほど楽で、この日も他の研修生たちは普通に働いていた。私だけが仕事もしないでノーテンキに招待されるなんて、「こんなの研修生じゃない!」と思った。

 屈辱感を持ったまま、牧師さん宅にお邪魔した。「何時まで大丈夫なの?」と聞く牧師婦人に「今日の仕事は終わりにしてもらったけど、他の研修生たちはまだ働いています」と一言イヤミを言った。が、相変わらず親切なこの家族に思わずリラックスして、結局長居してしまった。ドイツ語が未だに流暢に使えない私に対して、この家族は全く親切に接してくれるので、私は招待の仕方について腹を立てたことを少し後悔しました。
 あとで気持ちが落ち着いて、このことを思い返してみました。私は自分にびっくりしました。それは私が外国を好きな理由の一つが「日本の常識がたまに通用しないから」だったのに、その私が招待の仕方が非常識だといって腹を立てたのです。今さらにして私はカルチャーショックというものを体験しました。

 私は最近よく他の日本人研修生から「変わった、変わった、心も体も大きくなったね」と言われます。身体はひとまわりでかくなったかもしれないけど、心は何も変わってないと自分では思っていました。でも今回のことで、「前より私の心が小さくなったんじゃないかな?」と思って不安になりながらも、「これが大人になっているということかもしれない」とも思いました。

 昨年のクリスマスイブに二十一歳になった私は、気づかないうちに大人になっているようです。

 ……はぁ? 大人かー……

 
 
※この原稿は『農村報知新聞1月号』に掲載されたものです。