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アセアン農業研修生受入事業
『四半世紀記念シンポジウム』開催報告


 本会では昭和58年よりODA(政府開発援助)事業の一環として、アジアの農業・農村を担う人づくりの支援、彼我両国農業者の相互理解と友好親善の増進への寄与を目的に、アセアン諸国からの農業青年受入事業を実施しています。日本における農業研修を体験したアセアン農業青年は約1,400名を数え、彼らは帰国後、日本で習得した農業技術・農業経営感覚を活かし、母国の農業振興の牽引力として活躍しています。

 この度、四半世紀に亘るこれまでの事業の実績・成果をアセアン各国政府の担当者と検証すると同時に、今後のアセアン諸国に対する我が国の役割を考える機会とするため、記念シンポジウムを開催しました。(プログラムはこちらから

 長年JICA職員として、国際協力に携わってこられた小金丸梅夫氏より、当日の様子について、レポート頂きましたので、開催報告に換えさせて頂きます。



アセアン受入事業記念シンポジウム参加レポート

<シンポジウム会場>
国際交流棟「国際会議室」

 2か月ほど前からJAECからお知らせがあった「アセアン農業研修生受入事業 四半世紀記念シンポジウム〜アセアン農業青年の育成と日本が果たす役割〜」が、11月24日に国立オリンピック記念青少年総合センター「国際会議室」で開催されたので、興味津津強い関心を持って参加しました。

 連絡通知によると、朝9時半から夕方19時まで丸一日ぶっとうしのシンポジウムとあり、退職したJICA人生30年間を振り返ってもそんな思い出がなく、シンポジウム参加のために最寄りの駅を早朝6時過ぎに出発することも初めてでしたが、気分はルンルンでした。

 しかし、会場の国立オリンピック記念青少年総合センターに入場するのは初めてで、建物群の配置も初心者には分かりにくくもたもたしていたら、幸運にもJAECの伊藤常務に見つかり会場へ案内していただき恐縮でした。

会場内風景

総合司会の柴田優子さん(元国際農友会・内村良英会長の姪)

スタンバイした各国通訳

 9時30分過ぎに始まったプログラムの総合司会者は元NHKアナウンサーで、アセアン農業研修生受入事業を始めた当時の国際農友会内村良英会長の姪御さん。 流石、経験豊富で国際シンポジウムを滞りなく円滑に進行させました。

 長方形の会場の一片は、アセアン諸国からの留学生達が通訳ボランティアとしてずらりと着席し、頭にマイクロホンをつけ準備万端と見えても、緊張しながらスタンバイしているのが伝わってくる、そんな国際シンポジウムの始まりでした。

 開会式では主催者代表としてJAEC塩飽二郎理事長が、これまで25年間続けてきたアセアン農業青年受入事業を振り返り、その事業の特長と意義とアセアン農業開発への貢献について言及されました。またこれまでの実績と成果を検証しつつ、我が国ODAが縮小傾向にある中、本事業を国際協力の一手法とするのみならず、我が国とアセアン諸国との友好促進に寄与できれば幸いであると、格調高く挨拶されました。

 続いて来賓として、日本政府農林水産省の今井経営局長と在京タイ大使館臨時大使が登壇し、其々両国の立場から本事業の役割と今後の期待、それに本シンポジウム開催への祝辞を簡潔に述べられました。

主催者挨拶:塩飽理事長

来賓挨拶:農林水産省経営局長 今井 敏 氏

来賓挨拶:タイ大使館ヴィンダー女史(大使挨拶代読)

 来賓あいさつの後は、10時から30分間の鈴木俊東京農業大学名誉教授による基調講演で、演題は「アセアン農業青年の育成と日本が果たす役割」。

 講演はイントロとしてまずアセアン諸国の人口増加傾向から始まり、想定されるアセアン諸国の今後の問題点として、

  1. 食糧需要の増大
  2. 農産物の国内消費増による農産物輸出制限とその結果による外貨不足
  3. 環境破壊の進行

基調講演:東京農業大学名誉教授 鈴木 俊 氏

が、目立つようになるだろうと説明されました。

 同時にこの地域のポテンシャルとしては、モンスーンのもたらす豊富な水を利用した高い生産力と人口扶養力を持つ水田稲作農業技術を有し、水田稲作農業の更なる改善と発展が期待できると紹介されました。同時に現在押し寄せる農村近代化の過程では、伝統的な規範や生産様式が崩れて経済効率優先の考え方が台頭していると注意を促し、やがて裕福層と貧困層に階層分化し、対策を誤ると社会不安にもなりうるので要注意であると強調されました。

 次に農業教育・普及の事例紹介としてミャンマー、ラオス、ベトナム、タイの例を紹介され、問題点・課題としては、

  1. 施設・設備・人材等の不足
  2. 農業教育卒業者は役人・技術者となり、農業就業者となるのはごくわずか
  3. 普及関係者の質・量的不足
  4. 普及員や農民の研修・訓練施設・人材の不備

などを指摘されました。

 最後に日本の果たす役割として、人材教育の必要性を取り上げ、日本はモンスーンアジアにおける水稲栽培を基盤とする小規模で集約的農業経営を形成し、進展させた歴史と風土をアセアン諸国と共有しているので、こうした日本農業の経験と蓄積がアセアン農業青年の能力開発・育成にとって有効であり、最適モデルであると力説されました。

 流石に農業普及・農業技術移転論の名誉教授による講演は理路整然としていて、わかりやすい。おそらく会場の皆さんのみならず、私個人も大変勉強になりました。

 続いてカントリー・レポートに移り、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンから来日し、この国際会議に参加された各国政府農業省の本件事業担当者より、各国農業事情や農業青年の育成、JAECのプログラムにより日本で研修を受けたアセアン農業研修生OB達の帰国後の活動状況などについて報告がなされました。

<カントリー・レポート>

タイ

インドネシア共和国

マレーシア国

フィリピン共和国

ラッタナー・
タノムサキュース女史

ディアナ・
プラサティアワティ女史

モクタール・
スライ氏

マリア・
エンリケス女史

 報告内容の項目についてはJAECから予め相手側に連絡調整されていて、多少外交辞令的報告であったかもしれませんが、共通に言えることは、四半世紀続いているJAECのアセアン農業研修生受入事業を高く評価していることでした。本件研修生OB達が日本の農業技術のみならず、日本農民の農業者としての姿勢や文化・生活習慣などでも刺激を受け啓発され、帰国後の活動では国王や政府機関からモデル農家やアグリビジネス起業家として表彰されたり、地元農村の顔役にまで成長していることが明らかとなり、当事者ではない私まで嬉しくなり熱くなりました。 4ヶ国代表発表者はいずれも農業省関係部局の高官であり、マレーシアを除く3各国代表が女性であったことも、私にとっては新鮮な驚きでした。

 昼食休憩時間の後はパネル・ディスカッションへと進みました。

モデレーター
鈴木 俊 氏
(基調講演講師)

パネリスト
埼玉県受入農家:椎橋 美孝さん(右)
奈良県受入農家:井上 源一さん(左)

 パネリストはアセアン諸国からの農業研修生OBと、日本の受入農家2名。その内訳はタイから2名とインドネシア、マレーシア、フィリピンから各1名の計5名で女性はタイからの1名だけ。受入農家は両者ともJAECの派米農業研修生OBで、アセアン諸国からの農業研修生をこれまで其々7名と15名受け入れている埼玉県の植木生産経営農家と、奈良県の肉牛+水稲+花木の複合経営農家。モデレーターは講演に引き続き、鈴木名誉教授が担当されました。

 アセアン諸国からの農業研修生OB達のプロフィール(研修実施年度、日本国内配属先、帰国後の営農と活動状況)は下記のとおりです。

  • タイ女性:平成5年度、栃木県の野菜農家にて研修。帰国後の経営概要は水稲6.4haと野菜 (トウモロコシ+カボチャ+スイカの各80a+キュウリ32a)の複合営農で、地域のリーダーとして活躍中。

  • タイ男性:平成5年度、千葉県の水稲+野菜農家にて研修。帰国後の経営概要は水稲+野菜複合経 営から果樹(ローズアップル、マンゴー、グアバ)+野菜(ピーナッツ、インゲン)計2ha へ営農転換し、地域のリーダーとして活躍中。

  • インドネシア男性:平成7年度、富山県の野菜農家にて研修。帰国後の経営概要はクローブ(丁子) とセンゴンの計5ha栽培。農業研修センターのインストラクターや農業研修生OBインドネシア中部ジャワ州会長として、地域農業振興にも貢献中。

  • マレーシア男性:昭和61年度、栃木県の水稲農家にて研修。帰国後の経営概要は水稲13.5haと種籾6.5ha。 優秀水稲栽培農家として評価・認知され、2005年から農業省のプロジェクト農家(種籾栽培農家)としてのみならず、地域のリーダーとしても活躍中。

  • フィリピン男性:平成14年度、埼玉県の養豚農家にて研修。帰国後は畜産経営で肥育牛22頭、母豚1頭、 子豚14頭、羊29頭を飼育し、2005年、政府から優秀農家に選ばれ農業アドバイザーとして地域農業振興に貢献中で、農業研修生OBフィリピン・イロコス地域元会長。

<研修生OB・OG>

カーンチャナー・タワさん
(H5/タイ、旧姓:チョッブタン)

ブンチョイ・パンヤットさん
(H5/タイ)

バンバン・スパルトコさん
(H7/インドネシア)

ワヒド・サレーさん
(S61/マレーシア)

アレクサンダー・カルカグさん
(H14/フィリピン)

<通訳>

タイ語

インドネシア語

マレーシア語

タガログ語

 上記農業研修生OB達は、日本での農業研修の成果を帰国後本国で活かしながら、自らの営農実績を上げ、地域農業の振興にも貢献してきた自信あふれた発表を行いました。

 その総括的要点は以下のとおりです。

  1. 日本の受入農家のみならず、配属先地域全体の農業技術が素晴らしく、アセアン諸国の平均的農業技術はまだまだ遠く及ばない。

  2. 言葉、文化、習慣の違いで戸惑いや誤解もあったが、時間の経過と受入農家との信頼関係ができるに従い解決でき、国際異文化理解が深まる。

  3. 日本農家の農業経営は、季節変化が速いこともあって時間をすごく大事にする(Time is money ?)ことがわかり、季節変化が乏しいとは言え熱 帯地域でも時間の使い方の大事さを、日本農業から学ぶべきだ。

  4. 日本農民の農業に取り組む姿勢が真剣で素晴らしい。小規模耕作面積でも、高い農業技術、真剣に農業に取り込む姿勢及び、季節変化に素早く適応 する日常的に高密度な農作業時間などにより、効率的で生産性の高い農業経営が可能であることが分かった。

  5. 本事業は単なる農業技術の研修のみならず、農民・農業人としての真剣な取り組み姿勢や日本文化の理解・吸収もできるので、 これまで以上に受入人数と受入期間を増やし、今後も是非継続していただきたい。

  6. 四半世紀続いてきた本事業の研修生OB達が、アセアン諸国に約1,400名いる。今後はアセアン地域内および日本 (受入農家も含む)とアセアン諸国のOB達との、ネットワークを作り、情報交換や相互啓発・協力に役立てていきたい。

質問する留学生

 上記受入農家2名は、アセアン諸国からの農業研修生を受け入れる上での大きな問題点は、特にないと発表しました。過去自分達が派米農業研修生だった当時の受入農家との人間関係や師弟関係を思い出し参考にしながら、アセアンからの農業研修生を受入対応しており、困難な問題はなかったと説明されました。本研修事業は受入農家の家族や地域の国際化にも役立つので、今後も継続していただきたいと要望されました。


 このように、アセアン諸国研修生OBからも日本の受入農家からも、本事業に対する高い評価と今後の継続への積極的期待が寄せられ、会場内の関係者や一般参加者もパネリスト達の発表に元気をもらい、会場全体がいい雰囲気に包まれたシンポジウムだったと言えそうです。

 最後に私も一般席から以下のとおり、一言感想と提案を申し上げることにしました。

発言する小金丸さん

 今から40年前、就任したばかりのメキシコ大統領が、最初の外国訪問国として日本を選び、日本国首相に日墨500人づつの相互交換留学制度を提案しました。
 日本国首相はメキシコ大統領の熱意と情熱に感化され、結果的に100人づつの日墨交換留学制度が創設され、現在も続行されています。
 其々の必要経費は其々の両国政府予算で賄われています。日本から選抜され参加したのは大学生、大学院生、大学教員、国家公務員、公社公団外郭団体職員、大手商社・製造業社員達で、日墨交換留学制度は、両国の国際的な人材育成に多大な貢献をし続けています。私自身も1972年度参加者で、メキシコ・ベラクルス州で熱帯農業とスペイン語の研修を受け、これまで国際協力機構(JICA)職員として、国際農業技術協力に携わってきました。

 JICA入団後まもなくの1979年頃インドネシアに出張しましたが、インドネシア国農業省農業技術者訓練庁長官との対話が今でも忘れられません。
 彼は元JICA研修員であり、6ヶ月間の日本農業技術研修の中で、わずか1週間だったが農家での住み込み実習が最も効果的で、今でも忘れられないと言うのです。

 「小規模農家とは言え日本農民の高い農業技術、農民としての姿勢・勤勉さ、高い生活水準は、我々インドネシア農民の夢でありモデルである。ついてはJICAは日本人農業専門家のインドネシア人カウンターパートだけでなく、インドネシア農民を年間500人日本へ受け入れ、できれば1年間でも半年でもいいから直接農家住み込み実習をさせていただきたい。そうすれば気候に恵まれすぎてのんびりした生産性の低いインドネシア農民を、日本農民みたいに生産性の高い見違える農民に変身できるに違いない。」
と、長官は力説したのです。当時のJICAの研修員受入制度では、長官の希望の実現は到底不可能でしたが、ほどなくしてJAECのアセアン農業研修生受入事業が発足したのです。

 ところで、現在日本の財政的現状から、アセアン諸国からの農業研修生受入人数も受入期間も、これ以上増加することは不可能であります。
 もしアセアン諸国が日本での農業研修事業の継続と増大を熱望するのであれば、40年前のメキシコ政府が発案し自己負担したように、アセアン諸国政府も応分の負担をすべきではないでしょうか?40年前のメキシコより現在のアセアン諸国の経済状況がはるかにいいのだから、検討願いたい。

 このように申し上げたところ、会場からパラパラと拍手が上がったので、共鳴してくれた参加者もいたのだと思った次第です。

 その日は別件でどうしても中座しなければならず、その後の「総括」や「閉会式」、「レセプション」には参加できず残念に思っています。

 四半世紀記念シンポジウムを節目にして、本事業に新たな進展が芽生えてくればいいですね。 

 小金丸拝  

(業務部受入事業)




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