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ドイツ、環境意識と都市近郊での民間環境保護活動

社団法人国際農業者交流協会・欧州支部 皆戸顕彦

 車にガゾリンを入れているあいだ目を通していたゲネラルアンツァイガー(新聞)に読者投稿記事が載っていた。「今私たちは地球環境が大きく変わろうとしている予兆を目の当たりにしているのではないか。ドイツは化石燃料を大量消費し後世に混沌を残すのみではないのか…。」
 その数日後ニューオーリンズを襲った台風の影響で原油が高騰した。自然破壊という言葉が胸中に広がる。ワーストケースシナリオが徐々に顕実化しつつあるように感じる今、高まる不安に私たちはどのように向き合っていけば良いのだろう。


◆大いなる草の根活動

 ドイツにはNABU(ドイツ自然保護連盟)やBUND(ドイツ環境保護連盟)に代表される政治的に強力な発言力を持つ会員数十万人の大型民間環境保護NGO団体の他、各地域で自然保護、道路開発反対、核開発反対、自然学校、ボランティア活動に携わる小団体が数多くあり、それぞれが目的を達成する為に共同活動を通じて繋がりを持っている。地域団体やボランティア活動家であっても国に届くほどの大きな声、大きな力を手にできるのは団体同士の横の結び付きが確立している上、大型民間団体が援助協力するからだ。しかし全ての団体が同じ立場で同じ活動目的を持っているのではないし、長期的に環境問題と向合っている団体ばかりではない。「アンケートで“自然保護は大切か”と質問すれば誰もが“Yes”と答える。しかし、何が一番大切かという質問に対しては仕事場であり社会保障であって、自然保護というのはその下に位置付けられてしまう。現実に自分の家の前にゴミ処理場や道路、自然破壊になるような事が生じるまで環境保護の重要性を切実に感じられないのが現状なのです。」とNABUノルドラインヴェストファーレン州事務所のヨゼフ=トゥムブリンクさんは言う。

 地域によって自然環境意識に温度差があることも事実である。

 NABUデュッセルドルフは会員数約800人の組織である。数字だけ見れば決して小さな組織ではないが、周辺のNABU組織に比べ人口比では大きく下回っているという。「周辺地域の組織は人口の約1%が環境保護活動に参加していますが、人口57万人弱の州都デュッセルドルフにおける会員数の比率は遠く及びません。」

 とは言うものの会員はこの10年で4倍に増えた。1%とは言わなくてもその半分は達成したいとNABUデュッセルドルフ代表フランシスカ=リーナウさんはそう語る。普段から自然と向合う機会の多い郊外の住民の方が自然環境に対する意識が強い。「私たちの組織の中で実際に活動を行っている人となると、30人いるかどうか。多くの人はお金を払っているだけなのです。」
思っているだけではなく実際に動く人材を育てる事、多くの人に自然と向合う機会を作る事が都市部での環境保護意識を強める第一段階となる。

 NABUの子組織ともいえるNAJU(NABUの青年組織)というものがある。原則として6歳から27歳までの若者が参加して活動しているが年齢制限は特にない。子供や若者ならではの環境セミナー、自然学習、環境保護活動に取り組んでおり、NABUからは若者が主導的に活動した方が良いプロジェクトなどを委譲される事もある。人が手を加えたり踏み込んだりしてはいけない環境保護地域の管理や観察などはNABUが行い、NAJUでは積極的に自然と触れ合い、戯れながら環境保護活動継承者たちを育てる事に重点を置いている。こうしてNAJUで活動していた子供たちの中からNABUの会員が生まれていくケースは少なくない。

 

◆危機的状態の自然

  ドイツ全土では1日に約13haの平地が宅地化されているという。人口密集地帯であるノルドラインヴェストファーレン州(以下NRW)では年間凡そ7,000haの平地が宅地化されてしまう。「地域住民から“ガレージを作るからほんの少し”、“ちょっとアパートを作るから”と農地や平地の転用を持ちかけられた時、市町村はなかなか“No”といえない。まるでサラミを少しずつ切っていく様に自然はその身を切り減らしているのです。」そう言いながらリーナウさんは気鬱な顔をする。

 どの地域でも昔と比べ確認される生物が確実に減ってきているという。NABUデュッセルドルフ会員ヘンリッヒスさんの自宅庭には蝶が好む花がたくさん植えられており、今年は2種類の蝶が確認された。昨年は同じところに6種類の可憐な訪問者がやってきていた。勿論1年ばかりの短期的な観察では蝶が減っているかどうかはっきりさせる事はできない。しかしかつて見られた蝶の7割が今日この地域で見られなくなっているのは事実である。長期的な自然観測、具体的な自然保護活動がなければ結局は危機的状態の自然を明確に知る事は難しい。

 NABUデュッセルドルフでは街近郊の湿地帯(15,000u)を買い取りビオトープとしている。ここでは野鳥63種(内30種がここを産卵場所としている)、トンボ23種、カエル6種が確認されており、中には州のレッドデータブックにリストアップされている絶滅危惧種もある。このビオトープでは湿地形態の環境に順応した生物群を保護しているので、水辺の陸地化を防ぐ為に年に数回浅瀬の葦を刈り取ったり、ダムを作って沼の水が流出してしまうのを防いだりしている。外来種であるタデやオオハナウドを駆除する事も原種を保護する上で大切な仕事だ。

 「ここには藪や草むらに産卵する鳥、温かい浅瀬を必要とするカエルや小魚が生きています。彼らの為に普段はこの地域への立ち入りはしません。しかし、近くの湖への近道として釣り人が踏み入ってしまう事があります。」

 このビオトープは近年周辺の湿地帯も包括できるよう更に土地の買取を進める予定だそうだ。

 

◆当たり前の事が環境保護になるケース

  NRWには15基のゴミ焼却場が設備されている。1990年代までのゴミ問題としては、発生する様々な毒性物質について非常に盛んに議論されてきたが、近年の問題は焼却施設が多過ぎる事にある。1994年に施行されたゴミ処理法に基づきゴミの分別と紙やビンの回収が取り決められてゴミの排出量は減少した。しかしその結果、処理場では焼却物が足りなくなり外国から輸送してくるという矛盾が生じてしまっている。エコ政策をしているにも拘わらずゴミの量が減っていないという摩訶不思議な現象が生じてしまう。
確かにドイツでは空き瓶やペットボトルのデポジット(回収・再利用)が広く普及している。デポジットは環境保護のために良いという謳い文句もあるが、このシステムの誕生は環境保護と直接関係しない。「ドイツでは昔から地方の中小企業、いわゆるビール工場や飲料会社が空ビンを回収する習慣があったのです。それは新しいビンを購入するより安く上がったからで、実際大規模化した工場ではデポジットにすると容器を大量入荷するより高く付いてしまう。」とBUNDノルドラインヴェストファーレン州連盟のディルク=ヤンセンさんは言う。元来中小企業に適したシステムがデポジットであった。実際に大手企業では大量生産に適すアルミ缶入りのビールが作られているが地ビールではあまり見られない。

 「環境の為にはエコロジカルな生産物であることは確かに大切ではありますが、大規模生産よりも家族経営など小規模単位での生産の方が結局は自然に優しいものです。」

 自分の口に入るものを誰がどうやって作っているか知り相応しい評価を下すこと、いわゆる地産地消の精神が食に対する安全意識、ひいては環境意識を高めるためには有効となる。全国に1,200あまりのビール醸造所があるといわれるドイツでは地域に根付いた生産と消費がある。ビールをこよなく愛する人たちが迷わず地ビールを手に取るのを見れば、地方企業が愛されている事こそデポジット制度成功の鍵であり、実に自然に浸透していったのも納得できる。そして大量生産がエネルギーの大量消費をしていることは紛れもない事実である。

 ドイツではスーパーや市場で布製の買物袋を持参する買い物客がほとんどである。店でビニール袋をもらう際にはお金がかかるのだ。近年は日本でも環境の為にと買物袋持参の客が増えつつあるようだが、かつての日本では当たり前に買物袋やかごを下げて商店街へ向かったお母さんを見かけたのではないか。ドイツでは1970年に環境保護ラベリング制度が生まれ、前世紀末に確立した環境システム、環境保全制度のお陰で懐かしい買物風景が保存されている。

 昔ながらの習慣に環境保護のヒントは隠れているといえるのではないか。環境制度最先端を行く為に必ずしも最新鋭の技術を要するものではない。

 

◆国民意識と政策

 19世紀終わり、産業革命で農業国から工業国へと変貌していったドイツ。ルール地帯に代表される工業地域は農業と自然が紡ぎあってきたドイツの大地の上にモザイク状に拡大していった。

 2度の世界大戦を越えて経済産業復興が進んでいく最中、酸性雨による南部の大森林“黒い森”の破壊が深刻化し、1970年代に入ってから緑を守ろうという住民運動が活発になり、強まる国民の声はいよいよ政界へも波及し市町村議会から州議会へと広がりを見せた。1980年、南ドイツの都市カールスルーエで発足した連邦組織『緑の党』は1983年に党議会に進出することになったが、世界一古い環境主義政党の誕生と躍進の背景で国民の自然保護に関する意識の高まりが灯火となった事は確かである。ドイツが環境保全先駆者であるのは、身近で発生した自然破壊に対し、国民が敏感に反応し、激しくそして急激に危機感を持ったことに起因するのではないか。

 2005年秋、ドイツ総選挙の結果が出る。農業、自然保護、代替エネルギー、そして原子炉などに関して確かに政権が二大政党である社会民主党(SPD)にあるかキリスト教民主同盟(CDU)にあるかで政策が異なるところはある。しかしどちらにしても環境保護の重要性は民間内に浸透しつつあり、また民間の力の結束がますます必要となることは明らかである。そして市民の環境意識、知識が高まるように働きかけていく事が民間環境保護団体に課せられた使命となる。



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